
2025年10月3日、板橋区立グリーンホールで、相談会開催10回目の報告会を開催しました。会場、オンラインでご参加くださったみなさま、ありがとうございました。
「女性による女性のための相談会」は、コロナ禍の2021年3月、東京都新宿区の区立大久保公園での実施を皮切りに、これまでに10回の開催を数えました。
10回の開催で1218件の相談があり、相談内容からは、女性が抱えている困難は、理不尽で差別的な状況が背景にあることがわかりました。
誰にも相談できないでいる女性たちにとって、このような相談会の場は必要であると考えます。
女性の当事者運動として、女性が直面する困難を訴え解決の一歩とするために、10回の相談会を通じて見えた困難を抱える女性の現状を報告しました。
女性による女性のための相談会
―開催10回目の報告―
女性相談会のできるまで
長引くコロナ禍で女性の生活困窮が深刻化している――
2020年の暮れ、新宿の大久保公園で「年越し支援・コロナ被害相談村」が行われました。中心となったメンバーは、2008年の年末から2009年にかけて日比谷公園で行われた「年越し派遣村」の元実行委員たちでした。
私たちの女性相談会の始まりは、その中の一張りの「女性相談専用テント」からでした。女性からの相談は、派遣村では505人のうち5人でしたが、コロナ相談村では全体の2割にのぼりました。
女性たちは、コロナで仕事を失い、ステイホームで家族からのDVに耐えていました。
私たちが気になったのは、大久保公園のテントを遠巻きに見ている女性の姿でした。声をかけても、「男性が大勢いるから入りにくい」とためらっているのです。
私たちは、女性特有のニーズにあった相談を「気兼ねなくできる環境」が必要であることに思い至りました。
そして立ち上げたのが「女性による女性のための相談会」です。
当事者運動として
相談会実行委員会の結成にあたって、私たちは次のように考えました。
- 実行委員も当事者であるということ
- 男性主導の従来の相談会で感じたことから、女性たちが安心して相談できる居場所としての相談会を開催すること
- シスターフッドを育むこと
そして、相談に臨む姿勢としては、
- プライバシーの配慮を確保すること
- 疲れた相談者をいやす空間的配慮を作ること
- 相談者もボランティアになる融合的な空間を
- 相談者と相談を受ける者という垣根を作らない
- ジェンダーの視点を持つこと
私たちは、相談会の開催にあたって、何度も実行委員会会議を開きました。
実行委員会は7つのチームに分かれて、それぞれがより実効性のある相談会のために奮闘しています。
受付 | 相談の入口。相談者に受付票を渡し、相談の流れを案内します。 |
カフェ |
相談者のリラックス空間として、お茶や軽食を提供します。 |
インテーク/相談 |
相談内容を聞いた上で、法律や医療などより専門的な相談につなげ対応します。 |
マルシェ |
食料品や生活物資を提供します。 |
キッズスペース |
相談の間、お子さんを預かります。 |
SNS広報 |
X(旧ツイッター)で相談会をお知らせします。 |
メディア | プレスリリースをします。 |

これまでの相談と相談件数
第1回
2021年3月13日~14日
10:00~17:00
新宿区立大久保公園
相談:生活、労働、DV被害、性被害等
相談件数 125件
13日 相談者数 23名
実行委員とボランティア 約80名
14日 相談者数 102名
実行委員とボランティア 約140名
後援:日本労働弁護団/日本労働弁護団女性PT
第2回
2021年7月10日~11日
11:00~18:00
パズル浅草橋
相談:生活、労働、DV被害、性被害等
相談件数 123件
10日 相談者数 55名
11日 相談者数 68名
両日とも、実行委員 30名
相談にあたった弁護士 30名
主催:第二東京弁護士会
共催:女性による女性のための相談会
第3回
2021年12月25日~26日
11:00~16:30/10:00~16:00
新宿区立大久保公園
相談:生活、労働、DV被害、性被害等
相談件数 172件
25日 相談者数 84名
実行委員とボランティア 97名
26日 相談者数 88名
実行委員とボランティア 91名
後援:東京都/日本労働弁護団/日本労働弁護団女性労働PT/第二東京弁護士会
第4回
2022年1月8日~9日
11:00~16:30/10:00~16:00
新宿区立大久保公園
相談:生活、労働、DV被害、性被害等
相談件数 210件
8日 相談者数 113名
実行委員とボランティア 109名
9日 相談者数 97名
実行委員とボランティア 99名
後援:東京都/日本労働弁護団/日本労働弁護団女性労働PT/第二東京弁護士会
第5回
2022年7月1日~2日
10:00~16:30
文京区民センター2A
相談:生活、労働、法律、こころとからだの健康、DV/性暴力被害、妊娠出産等
相談件数 96件
1日 相談者数 47名
実行委員とボランティア 100名
2日 相談者数 47名
実行委員とボランティア 100名
後援 東京都/文京区/日本労働弁護団/日本労働弁護団女性労働PT/第二東京弁護士会/文京区助産師会
第6回
2023年1月21日
10:30~16:30
文京区民センター2A
相談:生活、労働、法律、こころとからだの健康、DV/性暴力被害、妊娠出産等
相談件数 85件
実行委員とボランティア 100名
後援:東京都/日本労働弁護団/日本労働弁護団女性労働PT/第二東京弁護士会
第7回
2024年7月28日
10:30~16:30
としま産業振興プラザ(IKE・Biz)
相談:生活、労働、法律、こころとからだの健康、DV/性暴力被害、妊娠出産等
相談件数 83件
実行委員とボランティア 68名
後援 東京都/豊島区/第二東京弁護士会/日本労働弁護団/日本労働弁護団女性労働PT
第8回
2024年12月22日
11:00~19:00
東京セミナー学院(池袋)
相談:生活、労働、法律、こころとからだの健康、DV/性暴力被害、妊娠出産等
相談件数 90件
実行委員とボランティア 69名
後援 東京都/豊島区/第二東京弁護士会/日本労働弁護団/日本労働弁護団女性労働PT
第9回
2025年3月20日
11:00~19:00
としま産業振興プラザ(IKE・Biz)
相談:生活、労働、法律、こころとからだの健康、DV/性暴力被害、妊娠出産等
相談件数 116件
実行委員とボランティア 81名
後援 東京都/豊島区/第二東京弁護士会/日本労働弁護団/日本労働弁護団女性労働PT
第10回
2025年8月3日
11:00~19:00
板橋区立グリーンホール
相談:生活、労働、法律、こころとからだの健康、DV/性暴力被害、妊娠出産等
相談件数 118件
実行委員とボランティア 83名
後援 東京都/板橋区/第二東京弁護士会/日本労働弁護団/日本労働弁護団女性労働PT

相談内容の概要
●コロナ禍中
コロナ禍の中で始まった女性による女性のための相談会(以下、女性相談会)では、シフトを減らされたり、無期転換権取得直前で雇止めされるなど、仕事を失う労働問題が多く寄せられました。コロナの影響は、非正規の女性労働者を直撃していました。
労働に次いで多かったのが家庭不和の相談でした。身体的な暴力がないことから、本人にDV被害の自覚が薄く、離婚には至らないものの夫の態度に悩む相談が目立ちました。
2021年暮れと2022年正月の大久保公園での相談会では、深刻な生活相談が増えました。コロナ禍で失業状態が長引いたこと、シフトが減り収入が激減したことなどが原因でした。ギリギリの生活レベルで暮らしていました。
何らかの疾患を抱えている相談者が目立ちました。以前は医療機関で治療を受けていた人が、失職するなどして保険証の継続ができず、治療費がないため治療をやめてしまう、また医療機関にかかりたくてもかかれないというものでした。
第5回目の女性相談会は、夫や子どもがいない平日の金曜日に開催したためか、離婚、別居、DV、子ども、介護などの家族に関する相談が多くありました。
夫からの経済的DVで「(夫から)生活費をもらえず、住むところや仕事があっても生活が苦しい、経済的自由がない」という相談がありました。
障がい者雇用についての相談もありました。
経済面でも物価高の影響による深刻なダメージを訴える声が寄せられました。「さらに生活が苦しくなった」「生活保護を利用しているが生活が苦しい」「障害年金が下がり、猛暑の中クーラーを使わずに我慢している」という訴えがありました。
暴力の問題も深刻です。この被害がメンタルに影響を与え、精神障がいを抱えている人も少なくありません。
再来場する相談者も増えてきました。相談者の中には、実行委員として、また、ボランティアとして女性相談会に関わってくれる人も出てきました。
コロナ禍を通じて、シフト減少や失業など、コロナの影響による労働問題が多く寄せられました。家庭内の不和やDVの相談も多く、女性相談会は、過去から潜在的に続いてきた女性の抱えている困難が語られる場となっています。
相談者は、安心感を求めて女性だけの空間を利用し、女性が持つ困難を共有し、共感をし合っています。相談を通じて、「もう少し頑張ってみる」といった前向きな気持ちを持つ人もいます。
話をじっくり聞く女性相談会の姿勢は、自分の問題を自由に話せる環境として相談者に評価されています。
●コロナ後
円安、物価高が生活に打撃を与えています。賃金が上がらない非正規労働の低収入、生活保護の枠内では生活することが厳しくなっています。
生活に困ってはいるが、何らかの支援につながっている人はいます。ところが、家庭、仕事、家族関係で悩みを抱え、過去に性暴力やいじめを受けている相談者が目立つようになりました。例えば、親からの性的虐待を受けても、十分な公的、福祉的ケアを受けることがなく月日を経て、解決されないまま精神的疾患を抱え、生きる困難さと困窮に苦しむケースです。
精神的な問題を抱え、そこへの十分な福祉的フォローがないため、困窮に陥っているのです。自力で福祉的対応につながる人は稀で、医療的ケアにつながりにくい状況にある人の相談も目立ちました。
2024年10月、日本が批准する女性差別撤廃条約の国内での実施状況を審査する国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は、日本政府に対して、60項目にわたる勧告を出しました。勧告は、家父長制の問題性、男女の賃金差別、司法へのアクセスの困難、性暴力の法的な定義に問題があること、複合的差別、職場の管理職に占める女性の割合の低さなど、ありとあらゆる差別的構造が存在することを是正するよう指摘しています。
CEDAW勧告は、女性への構造的差別が日本社会に横たわっていることを示しています。女性相談会では、一人の相談者が抱える問題が複雑で多岐にわたっており、対症療法的な対策では解決できません。定期的なチームカウンセリングで伴走支援をすることが不可欠です。と同時に、女性の困難を取り除くには、CEDAW勧告を受けた構造的女性差別の是正が必要です。
女性相談会では、女性たちが自分の問題を整理し、共感し合う場が提供されていますが、多くの相談者が、生活費や医療、福祉サービスへのアクセスに困難を抱え、とりわけ家庭内の問題は相談する人もいないため、孤立している実情が浮き彫りになっています。

相談内容のまとめ
相談内容から、精神障がいでの生活困窮、労働問題、家庭内の貧困、その他のさまざまな問題が融合的に結びついて、困難を抱える女性がより困難に苦しむ現状が見えてきました。
環境や社会からの理解が不足しているため、困難を強いられている現状があります。ハローワークでの就業機会は限られており、生活支援だけでなく必要なサポート機器の助成といった具体的な支援が必要です。また、支援を行う専門家が信頼関係を築くことも重要です。
労働問題についても、職場におけるハラスメントや性暴力によって精神的な健康を害し、生活困窮を引き起こす要因となっているケースが見られます。
労働環境の改善が必要ですが、実際には問題が起きる前に相談窓口に来る方が少ないという現実があります。
家庭内の貧困は、家庭の収入に関係なく、夫が十分な家計費を渡さないために苦しんでいます。このような夫のDVに苦しめられても、経済的な裏打ちがないため離婚を考えられずに我慢して生活しています。
育児に関しても複雑な問題があります。児童扶養手当の受給条件が厳しく、現実的な支援が不足しています。
生活困窮者に関しては、住まいの問題が争点化しています。現在の住宅扶助の上限が現地つの政活費に見合っていないのです。インフレで家賃が上昇しているため、生活保護を受けている人々が住む場所を見つけるのが困難になっています。
社会的に発達障害やメンタル障害に対する理解が欠如しており、偏見が存在するため、支援につながらず困難を抱える相談者が多いのが今回の特徴でした。延滞として、複合的な問題の解決には多方面からの取り組みが必要であり、かつ個々の状況に合った支援が求められていることが明らかになりました。